ARTIST

山口真人
I know what U want '22
2022

山口真人 YAMAGUCHI Masato

山口真人が描く女性たちは皆、どこかで出会ったことがあるような既視感を抱かせる。スマートホンを片手にカメラ目線で首をかしげる姿や、フィルターを合成して可愛さを演出する顔のアップ、それらは日々、SNSに大量に流れてくる見知らぬ誰かの姿を連想させる。示し合わせたように同じようなポーズでSNSに登場する若い女性たちの姿は山口にとって時代を映す存在であり、モデルとなる特定の人物やキャラクターがなくとも、見る人は思わず自分や身近な誰かの姿を重ね、親近感を抱くに違いない。そこにはかつてアンディ・ウォーホルが描いたマリリン・モンローに通じる時代の象徴性があり、国や言語を超えて漠然と共有される現代アジアの姿そのものが描かれているといえるだろう。

世界中の人がインターネット上でつながり、絶え間なくSNSと接続する現代において、リアルとバーチャルの境界はますます曖昧になり、ときに目の前にあるものよりディスプレイに映るもののほうがリアリティを持つことを山口の感覚は実に繊細に捉えている。LINEのメッセージで泣いてしまうこと、加工したセルフィーへの自己愛、バーチャルアイドルへの本気の恋、それらは日常にありふれていてもはや虚構とはいいがたい。山口はそうした時代性を背景として「トランスリアリティ(現実の向こう側の現実)」をテーマに作品をつくることで、現実とは何かを問い続けている。 (©︎kutsuna miwa)



1980年、東京生まれ。法政大学経済学研究科卒業。

大学卒業後、90年代渋谷系・グラフィティの影響を受けグラフィックデザイナーとして活動。2008年にはアート&デザインスタジオ「アイデアスケッチ」を設立。企業のVI、CI、アートディレクション、グラフィックデザイン、WEB、映像制作を手がけ、音楽関係のアートワークやPV制作。2011年からアートワークとして「Plastic Painting」シリーズの制作を開始し、以降もアート作品の制作。

山口真人は現代に生きる私たちのアイデンティティのあり方を絵画という形態から模索し、造形化します。例えばSNSや動画サービスサイト、AIによって生成される仮想イメージ等、相手の姿形や存在自体を実際に確認していないにも関わらず、そこにリアリティを覚える感覚をトランスリアリティと名付け、虚像性と実在性の同居が現代の私たちに共通する特徴の一つであると指摘する彼は、その造形化によって私たちが無防備に信じている世界の姿、私たち自身の存在にまつわる認識に再考を促します。

近年の個展に、「SeLFY」(SH GALLERY、2021)、「Trans Reality#2 INTO MATERIAL」(銀座高木ビル、2020)、「Trans Reality#1 Digital Objects」 (ターナーギャラリー、2020)、グループ展に「MAKERS SPACE x 山口真人 『stay pixelated』」(SH GALLERY、2022)、「WHAT CAFÉ EXHIBITION -GIFT」(寺田倉庫、2021)などがある。