ARTIST

2021
杉田万智 SUGITA Machi
香港を訪れたことがきっかけで、街中のネオンサインをモチーフにした油彩画を描き始めた杉田万智。彼女にとってネオンサインは単なる看板ではなく暗闇を照らす光のシンボルであり、描いているのは光そのものだ。
ネオンサイン特有のポップな色彩と装飾的なデザインで表現される文字や絵には、社会や人々へのメッセージが込められている。例えば人種差別問題をテーマにした作品では顔を向き合わせてようという意味の「FACE TO FACE」や他者を許容する「TOLERANCE」という言葉が描かれている。差別や偏見、戦争といった社会問題や平和への願いをテーマにする一方、日常のなかで大切な人がそばにいるささやかな幸せに思いを馳せる作品も描いており、ネオンサイン(看板や広告)が私たちの日常と社会を結ぶある種の装置であることや、何気ない日常の延長線上に戦争や差別が潜んでいることにも気づかされる。
人類は光に対して、これまで様々な意味を重ね合わせてきた。創世記において神は「光あれ」という言葉から世界をつくり、阿弥陀仏の発する無碍光は何物にも遮ることのできない光として人々に救いや希望を与えてきた。そして有史以来最も光にあふれた現代は、強い光に反して複雑な社会問題やそれによる危険性という闇も色濃い。杉田の作品は、暗闇の中でこそ強く感じる光への心強さや、街に煌々と灯る明かりの一つ一つが日常の安寧の象徴であることを思い起こさせるようだ。(©︎kutsuna miwa)
2000 年埼玉県生まれ、2020 年には「女子美術短期大学部 2019 年度卒業制作
展」卒業制作賞受賞、2021 年には「第 7 回『未来展』-日動画廊 美術大学学生支援プログラム-」において 準グランプリ・特別賞を受賞、また多数のグループ展に参加し、今春には初個展を開催するなど、今後の活動が最も注目される作家のひとり。
杉田は「光」を一貫して題材にしてきた。その一方で光に相対する存在である「闇」に対しても深い考察がなされている。戦争や差別、飢餓や貧困問題に注目し、現代社会における理不尽さにあふれる闇の世界を光(希望)で照らし出し、様々な社会問題に対するアンチテーゼとしている。
「光と闇と同様にこの世界は善と悪が共存し合う。それらを表現した絵画が私の視えている世界だ。どうか世界から光が消えませんように。貴方の心が光で灯りますように。」