ARTIST

2010
サワダモコ SAWADA Moco
クリスチャンの家庭で育ったサワダモコにとって、キリスト教の価値観は非常に身近なものであり、彼女の絵画制作に深く根づく世界観でもある。これまで一貫して描いてきた現実と虚構、二次元と三次元の関係には、幼いころから親しんできたインターネット上のコミュニティやゼロ年代以降のpixivやボーカロイドといったポップカルチャーの文脈が反映されているとともに、聖書の語る創造主としての神と被造物としての人間の関係が投影されている。
人間が神の被造物であるように、例えば膨大な画像データによって世界を再構築したGoogle Mapのストリートビューや、プログラミングによって自在に歌うボーカロイドのようなデジタルコンテンツは、人間が神を模倣して生み出した疑似被造物と解釈することができるだろう。サワダモコのピクセルを纏うヘッドホンの少女や、グリッチによって身体を引き延ばされた少女はそうしたデジタルコンテンツの象徴であり、本来、神の被造物のひとつである人間が新たな被造物を生むという入れ子の世界を描いている。それは、人間が神の行為をなぞることで、なぜ神が世界を創造したのか、その真意を問いかけているようだ。
興味深いのは、インターネットの世界が人の手によって再現された創世記であるといえる一方で、そこに絶対的な神は存在せず、匿名性と集合知によって無計画にネットワークが増殖し、そのカオスのなかから新たなテクノロジーが生まれている点だ。無数の創造主が同時に存在し、すべてが混沌と広がる様は、森羅万象に神々が宿る日本のアニミズム的な世界観に近いといえないだろうか。サワダモコは、人間がインターネットを介して紡ぐ創世神話を、これからどのように観察していくのだろう。(©︎kutsuna miwa)
1990年、大阪生まれ。
現在は、国内外のギャラリーやアートフェアに多数出展。
「つくられたもの」をテーマに、画像ファイルや3Dオブジェクトの「グリッチ」を取り入れたキャラクターを油絵で描く。被造物と空間との関係性を探るため、近年はキャラクター絵画だけでなく、地図アプリ上の風景画も制作。
近年の個展に、「逃避と報酬」(Art Gallery Shirokane 6c、2022)、「coexistence with collapse」(LIGHTHOUSE GALLERY、2021)、「仮想楽園計画」(SUNABA Gallery、2020)、グループ展に、「BEYOND」(333 Gallery Taipei、台湾、2022)、「Shirokane February」(Art Gallery Shirokane 6c、2022)、「SHOWCASE:comic & ART 2022」(アトリエ三月、2022)などがある。