ARTIST

大澤巴瑠
Onomatopoeia
2022

大澤巴瑠 OSAWA Hal

大澤巴瑠は他者とのコミュニケーションで起こる誤解や理解のズレを、複製という行為の不完全さから生じるイメージのズレに置き換え作品に落とし込んでいる。

その過程は非常にユニークで、デジタルで制作した原画をコピー機で複製し、さらにそれを手本とした複製画を肉筆によって制作するというものだ。コピー機による印刷は対象物とそれを焼き付ける光、そして操作する行為者が三位一体となって行われるため偶発的な変化が生じやすく、厳密に言えばデジタルと同じものを複製することはできない。さらにそれをキャンバスに貼った銀箔とCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、墨)によって肉筆で模写していくため、ますますオリジナルのデータから乖離したものが出来上がる。デジタルとアナログの複製を繰り返す事で、複製でありながら原画から徐々にズレていくその過程こそが大澤の着眼点であり、大量生産できる装置を使い唯一無二のものを作りだすことで物の価値や意味を問いかけている。

大澤が原画の複製に使用するコピー機は、戦後のポップアートが批判した大量生産・大量消費を象徴するもののひとつであり、ペーパーレスの進んだ現代においては過ぎた時代の象徴でもある。デジタル画像を瞬時にコピー&ペーストできる現代において、イメージや情報を複製することはますます容易くなったがその一方で、例えば単純な「ありがとう」という文字情報が発信者の意図と異なって伝達され、安易な複製によって拡散していくことも日常茶飯事だ。

大澤の描くモチーフには、iPhoneの絵文字やシンプル図形など日常で目にするとくに大きな意味を持たない「なんでもないもの」が恣意的に選ばれている。それが複製の過程で陰影やゆがみを与えられ変形していく過程は、意志のない偶然性(又は意志を持った行為)によってものの形が変化し、新たな意味性を与えられていく様子をありありと再現している。不自然に歪んだモチーフや引き延ばされたインクの形は原画とはかけ離れているものの、そこには妙な可笑しみや造形美があり、もはや複製ではなく唯一性を持った存在として変化していることに気づかされる。(©︎kutsuna miwa)



1997年、東京生まれ。以前までの作品は一度描いたものをコピー機に通し、印刷したものを描くという作品を制作してきた。大量生産の象徴のコピー機。ここに自らバグを生じさせるという行為を行ってきた。ここから展開し、コピー機の露光を行うガラスの部分に直接インクを垂らし「描く」と「印刷」を同時に行った。

これにより、引きずる行為そのものを可視化することが可能となり、身体と機械が分離していたところを一体化させた。

銀箔の下地により光を支持体にし、CMYK を用いることによりコピー機の印刷工程を示唆している。

個展に「ERROR」(MEDEL GALLERY SHU、2022)、主なグループ展に「KUA ANNUAL 2022『in Cm¦ ゴースト、迷宮、多元宇宙』(東京都美術館、2022)、「はじまれり」(ARTDYNE、2022)、「SHIBUYA STYLE vol.15」(西武渋谷、2021)、「In between 」(SkiiMa Gallery 、2021)