ARTIST

2022
きゃらあい Kyaraai
ポップな色彩の画面から、きらめく大きな瞳の少女たちが、じっとこちらを見ている。揺れる髪や華奢な体躯に無垢な幼さを感じる一方、凛とした佇まいが印象的だ。きゃらあいの描く少女は、きりっと目尻の上がった瞳の表現が特徴的で、不機嫌なようにも、物思いに耽っているようにも見える。その姿は、一般的に「少女」というモチーフに与えられがちな庇護対象としてのか弱いイメージや、幼い女性像、笑顔ですべてを受け入れる受容体としての少女像とは全く異なっている。そもそもきゃらあいの作品において、少女たちは簡単には笑わない。表情豊かで雄弁な瞳に対して、口の表現は静かでときに隠されてさえいる。愛想笑いをしない大人びた彼らの姿からは、かわいい姿をしたものが中身までかわいいとは限らないのだ、という意思を感じる。
作品制作においてきゃらあいは、日常で感じる不安定な揺らぎの感覚を大切にしているという。簡単にイエスかノーか言えないこと、白黒つけられない問題、どちらにも属せない存在など、日常生活の中で出会う曖昧なものに対して強く心を動かされ、見逃さないように描き留めているのだ。
少女とともに描かれるのは、高速道路や車、ゲーム機といった、どちらかというと少年らしいモチーフが多く、誰もが併せ持っている女性性と男性性、簡単に割り切れない多面性に気づかせられる。かわいいもののなかにある、そうでないもの。美しいものをつくるために汚される場所。幸福とともにある虚無。暴力と紙一重の強さ。グラデーションでつながる合わせ鏡のような概念を、きゃらあいは日常の中から丁寧に拾い集めているようだ。
SNSが浸透し、私たちは日々大量の情報に晒され続けている。シェアされ続ける他人の考えや感情に共感を続けることで、気づけばそれを自分のもののように錯覚してしまうことは意外と多い。自分という存在の輪郭を維持し続けることが難しい日常のなかで、答えのない宙ぶらりんの不安定さや、それによって生じる悲しみやストレス、違和感や不安ときゃらあいは向き合い描き続けている。
中学生の頃(2009年) からインターネット上で作品の発表を始める。当時はデジタルイラストレーションを制作していたが、2014年からは絵画制作を開始し展示活動へ移行。
現在は絵画制作の他に、楽曲PV、CDジャケットへのイラスト提供や、ワークショップの講師などの活動も行う。
「ゆらぎの中にいる自覚」をテーマに、きれい・汚い、ネット・リアル、性別など、対照となるものが、自己の意識の中で切り替わる瞬間に心を寄せ、作品制作をしている。
幼い頃に親しんだ少女漫画のような大きな瞳や、ファンシー雑貨のような色彩など、独自のキャッチーさで鑑賞者を引き込み、描かれた人物と対話ができるような作品を目指す。(©︎kutsuna miwa)
1996年、大阪生まれ。京都造形芸術大学アートプロデュース学科卒業。
近年の個展に、「デジタルデトックス」(Contemporary Tokyo、2022)、「ヒトリ」(PREFERE art gallery、2022)、「n秒後」(LIGHT HOUSE GALLERY、2021)、グループ展に、「Hi FIVE」(SHABI WORKSHOP、韓国、2022)、「199X 10」(shuuue、2021)「neo wassyoi」(Hidari Zingaro、2020)などがある。