ARTIST

2022
木原幸志郎 KIHARA Koshiro
鮮やかな色彩に目を奪われる木原幸志郎の油彩画。モチーフは色とりどりの抽象的な立体物で、その姿は変幻自在に形を変え、細胞分裂を繰り返すことによって無限の時を生きる原生生物のようにも見える。
木原の絵画制作を紐解くとき、双子の弟であり現代画家の健志郎の存在を無視することはできない。生まれたときから双子ならではの感覚を共有し、ともに現代画家となったからこそ両者の異なる作風はより際立っている。その一方で、制作手法には共通点も多く、どちらも最初に絵のモチーフを制作する。
木原はまず、粘土やポリバルーン、石膏等の素材に塗料を不規則にかけ、偶然性から生まれた形状を写真に撮影する。絵画のモチーフとなるこの抽象立体の制作を木原は最も重要視しており、子供のお絵描きや粘土遊びといった、遊戯の延長線上にある無心で愉快なものづくりの感覚を追体験しているという。
抽象立体の制作に対して、写真をもとに写実的な油彩画を描く後半のプロセスは具象の要素であり、遊び心は排除され、計算された緻密な作画が始まる。抽象立体か油彩画、どちらかひとつでは成立しない木原の表現は、常に二項対立する一方から他方へ反動を繰り返し、まるで彼自身が描くモチーフが与えるイメージのように、たえず運動を繰り返し変化しているように感じられる。「抽象」と「具象」、「現実」と「虚構」、「遊び」と「計算」、そこに「在る」のか「無い」のか、相反する2つの要素を行き来するということは、両者の間に横たわる言葉では表現しきれない境界そのものを描いていることに他ならない。(©︎kutsuna miwa)
1997年、兵庫生まれ。尾道市立大学大学院美術研究科美術専攻修了。
「抽象」と「具象」という相反する要素を複雑に絡み合わせ、キャンバスという一つの画面の中に同居させることで、その境界について考察している。様々な二項対立を制作を通して往来し、その境界を曖昧にすることで作品を成立させている。在学中より国内各地の展覧会に参加し、メディアにも数多く取り上げられている。また、木原健志郎は双子の弟であり、現在は兵庫県を拠点に、双子の弟・健志郎とともに創作活動を行う。
近年のグループ展に、「KUMA EXHIBITION 2022」(ANB Tokyo、2022)、「FACE2021」(SOMP美術館、2021)、「木原幸志郎・木原健志郎 二人展『Infinity Mirror』」(Gallery A8T、2021)、「昭和会展」(日動画廊、2021)、「Young Artists’ Show 2021」(Gallery A8T、2021)などがある。