ARTIST

2022
東麻奈美 HIGASHI Manami
東麻奈美は、回転するフィギュアを描く。モチーフに選ばれているのは、アニメに登場する美少女キャラクターのフィギュアや子供向け玩具のキャラクターフィギュアなのだが、それは作品のメインテーマではない、と東は語る。東が学生時代から強く興味を持ち取り組んできたのは、物質の動きや回転をキャンバスに閉じ込めるという行為だ。それは、かつて20世紀初頭の画家たちが表現した時間の流れを、フィギュアという現代的なモチーフを取り入れることによって、より大きな時間のループとして表しているといえるだろう。あえて油彩という伝統的な技法を用いて描いている点も、東がとらえる時間のダイナミズムを想像させる。
フィギュア化されたキャラクターにはもともと制作者によって設定された性格があり、身体的特徴や衣装によって規定されたある種の役割を持った存在なのだが、東にとってフィギュアはそうしたキャラクターの個性とは完全に分け隔てられている。あくまでもプラスチックに色付けされた無機物であり、そこに自身の人間性や感情、人の命や心、生や死といったものは投影されない。東の趣味嗜好とは無関係に時代ごとのアイコニックなキャラクターがモチーフに選ばれ、まるでタイムカプセルのようにキャンバス上に閉じ込められていく。
古来、人は信仰や呪術の対象として人形をつくり、神さえも人の形に描くことで、人間らしい感情や願いのようなものを託してきた。そのため、ときに私たちは人間を表現することこそがアートだと思い込んでしまうのだが、東の態度は徹底して客観的であり冷静だ。描かれているのは永遠に回転し続ける物質の在り様であり、それこそが現在という時を捉える新しい姿勢といえるのではないだろうか。(©︎kutsuna miwa)
1988年、神奈川生まれ。女子美術大学芸術学部洋画学科卒業、同大学大学院絵画研究領域修士課程修了。
2013年から東京を中心に、上海、ニューヨークなど国内外の多数の展覧会で作品を発表している。2021年にはART 台中に出品。
近年の個展に、「ポルターガイスト/回転」(女子美術大学ガレリアニケ、2022)、
「ホットケーキをバターになった4匹のトラで食べる」/MASATAKA CONTEMPORARY、2021)、グループ展に、「MINI◯」MASATAKA CONTEMPORARY、2022)、「THE SHAPE OF TIME」(TRiCERA Museum、2020)、「東麻奈美+竹馬紀美子『ICON』」(MASATAKA CONTEMPORARY、2019)などがある。