ARTIST

2022
橋本ユタカ HASHIMOTO Yutaka
橋本ユタカの作品には、少年のようなキャラクターが繰り返し登場する。便宜的に「少年のような」と書いたが、それが男か女か子どもか大人か、そもそも人間なのかも実は定かではない。表情のないシルエットだけの存在にも拘らずどこか懐かしさや親しみを感じさせるこの何者かについて、その意味は鑑賞者にゆだねられている。
ある人は手塚治虫や藤子・F・不二雄の漫画に登場するような愛嬌あるキャラクターを思い出すかもしれないし、またある人はグラフィティーアートだと感じるかもしれない。実際、スプレーやペンキを用いて描く表現には、伝統的な絵画をストリートの手法で再解釈する軽妙さがあり、それをある種の反芸術性と捉えることもできるのだが、橋本が同じモチーフだけを描き続ける姿勢や、ひたすらに塗り重ねる白と黒のペンキの積層は、繰り返す事で自己の存在を確認し、そして無の境地へと解体していく鍛錬の痕跡のように感じられる。
橋本は自身の作品を禅画だと言う。確かに、反復し、繰り返し、塗り重ねる橋本の創作活動は、朝目覚めてから眠るまで食事の仕方から歩き方、座り方まで規律を守り日々繰り返すことで自我や執着から離れ、自由自在の境地に至る禅僧を思わせる。
禅においてひと筆で描かれる円相は宇宙そのものを表す記号であり、悟りの象徴だと捉えられている。円という単純明快な図形のなかに人々が世の真理を覗き込むように、橋本の描くシンプルでポップなキャラクターは、見る人によって姿を変える鏡のような装置として機能している。それが何者かを問うとき、同時に私たちも何者であるかを問いかけられているのだ。(©︎kutsuna miwa)
1979年、大阪生まれ。嵯峨美術短期大学美術学科卒業、大阪総合デザイン専門学校 ビジュアルデザイン学科卒業。
近年の個展に、「Study for NULL#003」(Moosey Art Norwich、イギリス、2021)「Study for NULL #002」(gekilin、2020)、グループ展に「MOOSEY LONDON OPENING EXHIBITION」(Moosey Art Norwich、イギリス、2021)、「NICE GUYS LIVE FOREVER」(Moosey Art London、イギリス、2021)、「whereabouts in TOKYO」(ターナーギャラリー、2021)などがある。
私が制作している作品のモチーフとしているキャラクターは、手塚治虫をはじめ様々な日本の漫画家がウォルトディズニーから影響を受けたキャラクター作りを私が再構築し作り出したコモンイメージとしてのキャラクターです。 ウォルトディズニーは日本の漫画のみならず、アンディウォーホルやキースヘリングをはじめポップアートにも影響を与えており、私の作り出すキャラクターもまたポップアートでもモチーフにされた大量生産されたコミックからインスピレーションを受けています。 キャラクターは私によって書き順を与えられることで記号化され、その反復される筆記の中で保存と変化のプロセスはコマ撮りのように多数の作品として定着します。 つまりこれを見ることで鑑賞者が記憶にあるキャラクターと私の作品との差異を見ることになり鑑賞者側の記憶を参照にし、作品を強度のある絵画として再構成されます。 私は鑑賞者に作品と記憶との差異の中で鑑賞者の記憶から喚起され、しかし記憶にはないキャラクターを作品を見る度に、思い出し再構成させるプロセスで作品と鑑賞者との結びつきを、そして同じようにキャラクターに対して「分からない」「なんだこれは」という感情をもった鑑賞者と鑑賞者の結びつきを強くする装置として表現し、 そしてそれを美術品としてだけではなく、記録媒体としての側面を持った肖像画として一人の生きた人間の記録として制作しています。 作品と鑑賞者、鑑賞者と鑑賞者の結びつきを強くするということは、作品の前で鑑賞者は知らず知らずのうちに様々なバイアスから解放され「全ての生き物は一つである」という「禅」の思想に鑑賞者を巻き込むこと、そして「ポップアート」と「禅」という異なる思想を重ね合わせ再構成することで新たなムーブメントが生まれるのではないかと私は考えています。