ARTIST

フカミエリ
無意識の侵略
2022

フカミエリ FUKAMI Eri

カラフルな色彩、風景に溶けてしまう身体、草花や動物たち…、絵本や童話を思わせるファンタジックな世界観は一見、作り物めいているが、これはフカミエリの日常の記録であり、リアルそのものだ。作品を日記として捉える彼女は、目に映る世界、身の回りの出来事を研ぎ澄まされた主観によってつぶさに描写していく。カメラのシャッターを押すような単純な視覚的記録ではなく、感動や痛み、夢と現実が曖昧になる感覚、他人との「分かり合えなさ」など、彼女の身体が感じるリアリティがそこには凝縮されている。

フカミ自身は、制作に対する向き合い方を「5歳児返り」と表現している。5歳児は乳幼児期を経て、保護者から独立した個別の人格として社会性や理解力を身につけはじめる時期であり、たとえばそれまで人間のことを「目が二つ、足が二本」など記号的に認識していたにすぎないところから、人間それぞれのディテールの違い、性格の違い、表情のバリエーションとそれに紐づく感情などを複雑に理解し始める。自身を5歳児に置き換えて描くことで無意識に身についた客観性を切り離し、徹底した主観によってリアリティを深めて描くことで世界の見え方を一つ一つ再確認しているようだ。

個人的な感情や情緒を出発点とする表現主義は、もはやあらゆる画家によって表現し尽くされてきた。しかし、その果てに到達した現代の日常風景は、理性的で客観的なテクノロジーと洗練されたコマーシャリズムに支配され、人間としての激しい衝動や懊悩、悶絶するような痛みさえ理路整然と処理する仕組みが成立してしまっている。合理性や利便性と引き換えに主観を手放しつつある私たちにとって、フカミエリの作品はリアルな身体の感触や人間の非合理性、他者と共存することで生じる「共感」と「分からなさ」を生々しく思い出させてくれる装置のようである。(©︎kutsuna miwa)



大阪生まれ。東京藝術大学美術学部油画科在籍。

自分と世界における「こころの在りか」をテーマに制作している。

人間の意識を作っているのはなんだろうか。とある瞬間に、デジャヴを感じたり。夢の中で何度も繰り返される光景を見たり。「なにか」に出会って感動したり。私達が、意識せずとも。こころが、感情が、記憶が、私よりも正確に「世界の在りか」を教えてくれる。

近年の個展に「fictional reality. 」(biscuit gallery、2022)、「You know who I am」(MEDEL GALLERY SHU、2022)、(千代田区・東京)、グループ展に、「grid」(biscuit gallery、2022)、「YOUNG ARTISTS SHOW 2021」仙台Gallery A8T、2021)、「暖味なうねり」(Meets Gallery、2021)などがある。