ARTIST

BYNAM
Portrait of Elvis Presley
2022
© 2022 BYNAM

BYNAM

BYNAMの代表作である「ポートレートシリーズ」は、時代を代表するポップスターやセレブ、政治家たちの肖像をモザイク処理し、ペイントとして再構築することで視覚的認知が曖昧になる状態を意識的に作り出している。間近に見ると作品は多角形の色の集合体としてしか認識できず、遠くに離れることで徐々に人物像がぼんやりと浮かび上がって見えるが、物理的距離が遠くなるほど解像度は荒くなり、やはりその人物像を明確に知覚することはできない。鑑賞者は常にぼんやりとモチーフを捉え続けることになる。

対象物との距離によって生じるこの曖昧な認知は、BYNAM自身が実際に他者との間に感じているものだという。BYNAMは長らく上海を中心に活動してきたアーティストであり、その活動領域は絵画だけにとどまらず、建築やデジタルアートなど多岐にわたる。国籍や専門領域、文化的思想的背景の異なる他者のなかに身を置くことで、自己と他者を分け隔てる絶対的な距離や、反対にその他大勢のなかに埋没し同化していくことへの安心感や心地よさを認識したという。

物理的距離がどれほど近づいても、明確に相手の本質をつかむことができない不確かさは多くの人にとっても共感できるものだ。とりわけ大量のデジタル画像がインターネットを介して無尽蔵にコピー&ペーストされ続ける現代において、ヴィジュアルイメージが伝播するほど、個人としての性質や本質を曖昧にしてしまうことを私たちはよく理解している。かつてアンディー・ウォーホルがマリリン・モンローの死後、彼女のヴィジュアルイメージを素材に作品を制作したように、BYNAMは故人となったポップスターたちにモザイク処理を施して肖像画にすることでパブリックイメージを曖昧にし、ただの人としてその他大勢との同質化を仕掛けている。(©︎kutsuna miwa)


韓国人アーティスト。

多角形のモザイクのようなフィルターを使ったポートレイト作品を中心とした絵画を発表。

《近くよりも遠くからこそ知覚が可能な距離》をモチーフに対人距離と絵画距離をリンクさせる。

ポップアイコンや一般人、インフルエンサーからフォロワーまで、ありとあらゆる人物を並列に描く肖像画家である。