ARTIST

2022
奥田雄太 OKUDA Yuta
花に感謝の心を込める一方、花を食物連鎖の始まりとしても捉えているという。花の蜜を吸った虫、虫を捕食する動物、そして死んだ動物は土壌に分解されやがて新しい花を咲かせる糧となる。命が廻るそのイメージは、花というモチーフに生と死の強いコントラストを与えている。
また、作品をどの距離から見るかによっても印象はがらりと変わる。真っ先に目を奪われるのは高い構成力と色彩表現だが、近づいて見れば奥田が線の画家だとすぐに気づかされるだろう。無数の緻密な線によってグラデーションがアウトライン化され、そこに小さな花が描き込まれている。カラフルな花束とは対照的なモノクロの細密世界だ。
奥田の線に対する偏愛と探求心は、日本画家のそれに近い。輪郭表現が主体となる日本画において線は絵そのものであり、たった一本の線に画家の技巧と作品に対する姿勢、その瞬間の呼吸までもが込められている。とくに仏画は描き手の感情を込めない均質な鉄線描が基本で、厳格な線の一本一本が「祈り」のかたちだ。それは、日常の儚さとありがたさを実直に表現する奥田の作品にも通じる態度ではないだろうか。線によって色彩を整理し、偶然飛び散った絵の具の小さな粒にも輪郭を与えていく作業は、そこに生まれたすべてのものにあるべき意味を与えるようだ。(©︎kutsuna miwa)
1987年、愛知生まれ。
日本とイギリスにてファッションデザインを学んだのち、ファッションブランド「TAKEO KIKUCHI」でデザイナーとして活動。2016年にアーティストに転向した奥田雄太は国内での個展やグループ展に精力的に参加し、製作と発表を続けキャリアを築き上げている。
計算した線のみで構成された細密画で表現していたが、ここ数年「偶然性」に重きを置いた”花”の作品を中心に発表を続けている。さまざまな色味で表現される花はポップなイメージが強いが、花びら一つ一つに緻密な線描が施されている。
彼自身、花に見えなくてもいいと語るそれは確かに具象としての花ではない。
作家が「自己をサルベージ(救出・救助)する」なかでたどり着いた、幼少期の記憶がもととなっていると語る。
コロナ禍をきっかけに、当たり前と感じていたことが実は特別な出来事だったと気づき、「感謝を作品にしたい」という思いから「with gratitude」をテーマに作品を製作している。
近年の個展に、「With Gratitude」(Mizuma Gallery、シンガポール、2022)、「With Gratitude」(Mizuma&Kips、アメリカ、2021)、「Black to Colorful」(石川画廊、2020)、グループ展に「Food Chain」(TOMOHIKO YOSHINO GALLERY、2020)、「Monochrome」(美の起源、2019)などがある。