ARTIST

西村昂祐
zombie
2022

西村昂祐 NISHIMURA Kousuke

西村はデカルコマニーという古くからある転写技法を用い、広く認知されているものを記号としてモチーフに用い、複製により変化していく様を絵具の物質感で表現している。

かつて明治政府は、天皇の肖像を御真影として日本全国に行き渡らせることで、それまで民衆の目には見えなかった天皇を可視化し、権力の象徴として共有することに成功した。しかし、その御真影は写真ではなく、イタリア人版画家によってデフォルメされた絵、いわば架空のキャラクターであり、民衆は実物から変容した像を本物と認識していたことになる。西村は「モナ・リザ」や「真珠の耳飾りの少女」、「サザエさん」や「ドラえもん」など、私たちが日常生活のなかで慣れ親しんできたキャラクターを題材に、絵の具による転写を繰り返し、色の集合体に分解することで人間の認知のあいまいさを指摘している。

いつでも誰とでも容易く画像を共有できるようになった現代では、著名人だけでなく、無名の個人の顔や姿も無作為に複製、拡散され、すべてのものが記号化されていく。西村が描く、フォルムが消失し、色だけが重ね合わされた画面は、記号化された個人と実物の焦点の定まらない距離感そのもののようだ。作品やキャラクターのディテールや本質的な要素が置き去りにされ、表層的な形や見え方といった外殻だけを複製する行為は、SNSやメタバースのなかで個人を記号化し複製し続ける現代社会への大いなるアイロニーを含んでいる。(©︎kutsuna miwa)

1999年、兵庫生まれ。大阪教育大学芸術表現専攻卒業、東京藝術大学大学院油画研究室在籍。

デカルコマニーという古くからある転写技法を用い、誰もが知る有名キャラクターや 絵画・浮世絵等を表現する。

近年の個展に、「Golden Time」(マンションみどり、2020)、「replication」(igu_m_art、2021)、「surface」(歩歩琳堂画廊、2021)、グループ展に、「三菱商事アートゲートプログラム奨学生成果発表展」(MC FOREST、2021)、「showcase vol.21 paintingpainting!!!!」(アトリエ三月、2021)などがある。