ARTIST

2021
森洋史 MORI Hiroshi
森の作品はシミュレーショニズムに基づき、西洋の宗教画や古典絵画、著名な日本画など伝統と権威をもった既存作品と、漫画やアニメ、ゲームといったポップカルチャーのスタイルをミックスさせて制作されている。
1980年代、ニューヨークのアートシーンから流行したシミュレーショニズムは、著名な絵画や誰もが知る広告など既存のイメージを意識的に作品に取り入れ、新しい価値に変換させることでオリジナリティの意味を問うとともに消費社会を批判してきたが、日本においてはまだまだ浸透していないスタイルのため、アーティストの意図が正確に理解されず単なる「盗用」や「模倣」と捉えられることさえある。
森はアメリカ生まれのシミュレーショニズムを、日本の歴史や文化的背景に基づいて、日本人ならではの方法で新たに紡いでいくことに意義を見出している。
森の代表作のひとつである宗教画をテーマにしたシリーズでは、本来、黄金のテンペラ技法で表現される背景を、アルミニウムパネルにUVシルクスクリーン印刷を施し疑似的な黄金テンペラに置き換えている。黄金テンペラという技法が持つ歴史性と権威を、森自身が子供時代に親しんだ超合金ロボのようなおもちゃの質感にコンバートさせることで、悪戯的に反抗する狙いがあると森自身が明かしている。作品制作では「過去のマスターピースやその手法を想起させること」を自身への課題のひとつとしており、アートに対する冷静で客観的な分析の目を持つ一方、過去の美術史への敬意が込められていることがわかる。
2021年に開催された個展で発表された「モリゴンキューピー」は、キューピー人形と初期のコンピューターグラフィックスのポリゴンを掛け合わせた作品。立体や版画、映像、NFTなど複数のメディアで表現することで、さらに複雑なシミュレーション・アートへ発展させている。
シミュレーショニズムが誕生した理由のひとつとして、複製技術が急速に進歩した時代背景が挙げられるが、ネットを介して繰り広げられる現代のコピー&ペーストの氾濫はその比ではない。森の作品はシミュレーショニズムによって、アートの過去と現在を結び、また現代という時代を捉える新しい姿勢そのものだろう。
1977年、東京生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科油画技法・材料修士課程修了。
パロディの手法を使って作品制作を行う。宗教画の伝統的な黄金背景を、最新技術のUV印刷によってマンガ風に変換するなど、古典やポップ・アートの名画、またアニメやマンガ、ゲームからの引用といった既存のイメージを組み合わせて「いたずら」を仕掛けた作品を通して、アートにおけるオリジナルとは何かを追求している。
近年の個展に、「MORYGON KEWPIE」(銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM、2021)、「Dot X Square」(WK GALLERY、中国、2021)、「project N 68 森洋史」(東京オペラシティアートギャラリー 4Fコリドール、2017)、グループ展に、「遠い星の時間」(neXtLab, TX Huaihai、中国、2021)、「ブレイク前夜×代官山ヒルサイドテラス時代を突っ走れ! 小山登美夫セレクションのアーティスト38人」(代官山ヒルサイドフォーラム、2020)、「VU!」(渋谷ヒカリエ8/CUBE、2019)などがある。