ARTIST

2022
木原健志郎 KIHARA Kenshiro
双子の画家として知られる木原兄弟は、創作のアプローチこそ似ているものの作品の印象やモチーフは180度異なる。弟の健志郎は、ジオラマの街に様々なキャラクターが登場する独特の世界をモノトーンの油彩画で描く画家だ。古い記録写真や映画の一片を思わせる深い陰影が刻まれた画面は、誰の脳裏にも残されている幼少期の思い出やセンチメンタルな感情を思い起こさせる。
キャンバスに向かう前に、実際にジオラマを作るのが木原のスタイルで、フィギュアに役割を与えて手製の舞台で即興劇を演じさせるような過程を彼自身は “ごっこ遊び” だと語り、そのプロセス自体を楽しんでいるのだという。子供時代に体験した純然たる遊戯性を再現し制作プロセスに組み込むことで、当時の純粋無垢な感覚を作品に補完しているようだ。フィギュアのモチーフにする特撮ヒーローや怪獣、おもちゃのキャラクターは木原が幼いころに親しんだものたちであり、現在の彼を形成する価値観やオリジナリティの根源となる幼少期の表象といえるだろう。
しかし、そのようにして完成した作品は決して懐古主義的なだけでなく、写真によって構成された街並みに突如現れるヒーローや怪獣はポップな見た目に反して、虚構を倒壊させる暴力性と、ノスタルジーから引き剝がして現実を突きつける無邪気な残酷性を孕んでいる。懐かしさを描きながら同時にそれを否定することで生まれる葛藤が、作家の個人的な思い出に端を発した物語性を、鑑賞者を巻き込む普遍的な共感へと昇華させている。
1997年、兵庫生まれ、尾道市立大学大学院美術研究科美術専攻修了。
特撮ヒーローや怪獣などのおもちゃと、書き割りのような風景写真を組み合わせてジオラマを作り、写真を用いて制作する。子供の「ごっこ遊び」と類似した行為を制作プロセスに取り入れることで潜在的な幼少期の感覚を無意識的に表出し、リアリティを持った画面を創り出し、さらに写真を用いることによって恣意性を除去し、作品に普遍性をもたらしている。在学中より国内各地の展覧会に参加し、メディアにも数多く取り上げられている。
また、木原幸志郎は双子の兄であり、現在は兵庫県を拠点に、双子の兄・幸志郎とともに創作活動を行う。
近年のグループ展に、「はじまれり」(ARTDYNE、2022)、「ブレイク前夜展2022」(Artglorieux、2022)、「FACE2021」(SOMP美術館、2021)、「木原幸志郎・木原健志郎 二人展『Infinity Mirror』」(Gallery A8T、2021)などがある。