ARTIST

宏美
コいロんナた禍-のねっと(円環)
2020

宏美 Hiromi

宏美の風景画はまるで白昼夢のようだ。

庭先や交差点、住宅街といった、どことも知れない無名の風景の中には被災地の姿も描かれている。その風景を覆いつくすように枝葉を伸ばし、茫々と繁る植物は、人間が定めた社会規範やそこで起きる紆余曲折とは全く異なる摂理で再生と繁殖を繰り返す強烈な生命力そのものだ。可憐な花を咲かせる一方、壁を毛細血管のように這う蔦や、庭先で縦横無尽に伸びる雑草は強かで、美しさとグロテスクさが表裏一体であることを示している。

そして、風景の中を浮遊し、点滅するように描かれるキャラクターは、植物とゆるやかに同化し繋がっているように見える。キャラクターは人の憧れや理想、ふと思い出す記憶や懐かしさの象徴ともいえるし、日本人が古の時代から万物に感じてきた親しみや畏れを具現化した神の姿ともいえるだろう。

しかし、断片的なイメージに分割され、ところどころモザイクを施されたキャラクターは、どんなに目を凝らしてもはっきりその姿をとらえることはできない。その混沌とした風景は、日々、膨大な情報にさらされ、複雑な社会のルールと人間関係を処理し続ける現代人の不安定な視界そのもののようだ。それでも思わず見つめてしまうのは、その風景の中にいつか記憶の中に置き忘れてきた大切なものが隠されているような気がするからかもしれない。(©︎kutsuna miwa)

1989年、岡山生まれ。倉敷芸術科学大学芸術学部卒業。同年、カオス*ラウンジが主催するポストスーパーフラット・アートスクールに参加。地方と都心のアートのギャップに違和感を感じ、岡山と東京を行き来しながら展示をする近年では「ドローイング展」と称したグループ展を開催、地方差や年齢差なく、アーティストが関われる場所を作ろうと心掛けている。

近年の個展に、「木・森・土」(GALERIEOVO Gallrey、台湾、2022)、「neo green」(OF、2021)、「木と森」(新宿眼科画廊、2019)、グループ展に、「ドローイング展ゆうだち」(新宿眼科画廊、2022)、「犬展」(プライベイト、2022)、「ドローイング展みちくさ」(River Coffe&Gallrey、2021)などがある。